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2008.05.10 Saturday
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この短編は引用部のあと、五行で終わる。作中たしか唯一の固有名詞をもつ杳子(通読したのがかなり以前なので記憶がすこしあやしい)のまさに「杳」の文字が物語りの中に浸食したとでもいうべき結び。「明日、病院に行きます。入院しなくても済みそう。そのつもりになれば、健康になるなんて簡単なことよ。でも、薬を呑まされるのは、口惜しいわ……」
そう嘆いて、杳子は赤い光の中へ目を凝らした。彼はそばに行って右腕で杳子を包んで、杳子にならって表の景色を見つめた。家々の間にひとすじに遠ざかる細い道のむこうで、赤みをました秋の陽が痩せ細った樹の上へと沈もうとしているところだった。地に立つ物がすべて半面を赤く炙られて、濃い影を同じ方角にねっとりと流して、自然らしさと怪奇さの境い目に立って静まり返っていた。『杳子・妻隠』 新潮文庫P145より
「日」ではなく「陽」の文字を使ったのは、「陽」が「ヨウ」とも発音されるからかもしれない。こういった小説を書く著者の作品から引用をおこなう場合、やっぱり文字をそのままに引用したい。【杳】
△ヨウ(エウ)
1,くらい
2,ふかい。奥深い
3,はるか。とおい
解字
指事。木の下に日があることによって、日が西に沈んで、くらいの意味を表す。漢語林 改訂版 大修館書店より